情報システム・モデル取引・契約書は経済産業省商務情報政策局情報処理振興課が2007年4月に公開した「情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会」の成果。

ソフトウェア要件定義~開発~保守・運用までをカバーしている。FOSS(フリーソフトウェア及びオープンソースソフトウェア)の利用やSaaS/ASPも考慮(追補版)されている。また、イテレーティブ(反復繰り返し型)な開発も留意点として触れている。
よくできているように見えるので来栖川電算の契約の雛形に使わせてもらうことにした。

とはいえ、鵜呑みはまずいのでソフトウェア開発契約に強い弁護士に内容を精査してもらわないといけない気がする。そんな弁護士いるんだろうか?知ってる人がいたら教えてください。とりあえずは商工会議所の無料相談に行ってみたいと思います。

以下、読んで興味があったところの抜粋。

モデル取引契約書の概要

全体的に共通フレーム2007に強く依存している。共通フレーム2007を知らなくても使えるものの、用語の定義も共通フレーム2007で言うところの何々としか書いてなかったりする(笑)
契約書の条文とその解説で構成されている。
納品物への添付文書例や業務報告書例など契約を履行するための具体的な作業手順についても書かれている。

フェーズの分類と契約類型

モデル取引契約書では大きく以下の表のように契約のフェーズを区切っている。各フェーズで契約形態は顧客(ユーザ)の責任で業務を行う【準委任型】と自社(ベンダ)の責任で業務を行う【請負型】を使い分ける。
ベンダは【請負型】契約の成果物にのみ瑕疵担保責任を負い、【準委任型】契約において責任を負うことはない。また、各フェーズごとにユーザとベンダの明確な役割分担の重要性とそのモデルが書かれている。

取引・契約モデル
におけるフェーズ分け
モデル契約書雛形における
個別業務と契約類型
契約形態
システム化の方向性
システム化計画
(対象外)
要件定義 要件定義作成支援業務 【準委任型】
システム設計(システム外部設計) 外部設計書作成(支援)業務 【準委任型】【請負型】の選択
システム方式設計(システム内部設計)
ソフトウェア設計
プログラミング
ソフトウェアテスト
システム結合
ソフトウェア開発業務 【請負型】
システムテスト 【準委任型】【請負型】の選択
導入・受入支援
運用テスト
ソフトウェア運用準備・移行支援業務 【準委任型】
運用 システム運用業務 【保守運用型】
保守 システム保守業務 【保守運用型】

実質的に【請負型】契約を結ぶ作業はソフトウェア開発業務のうち内部設計から結合テストまでとなる。他のフェーズは成果物が規定できない。というより成果物がどういうものになるのかを規定する作業と成果物が規定どおりに出来上がっているかを確認する作業となる。
これは自分の感覚ともあっている。

著作権の帰属/第45条

以下の理由により自社(ベンダ)に著作権が帰属することになんら問題はないという意見が書かれている。この意見には賛成する。経験的にユーザは成果物の持ち腐れになることが多いように思う。成果物は広く社会に還元し、ベンダの成長も促進する使い方をしたほうがよいはず。

  1. ベンダに著作権を帰属させることにより、社会的な生産効率の向上(ベンダの横展開(パッケージ化、共通モジュールの再利用等))とともに、プログラムの部品化、標準化等により情報システムの信頼性向上を図ることが可能となる
  2. ベンダに秘密保持義務を課すことでユーザのノウハウ流出防止を図ることが可能であり、”ノウハウ流出防止=著作権のユーザ帰属”ではない。
  3. 情報システム構築の委託契約において、明示的にベンダからユーザへの権利移転の対価は含まれていないので対等な取引条件とはいいがたい。
  4. プログラムの著作物についての一定の改変、複製・翻案は、複製物の所有者(ユーザ)に対しても著作権法44により許容されており、著作権を有しないユーザが情報システム子会社その他アウトソーシングベンダに保守運用を委託することは可能である。

この実現規定として以下の3パターンが用意されている。

  1. ベンダにすべての著作権を帰属させる場合
  2. 汎用的な利用が可能なプログラム等の著作権をベンダへ、それ以外をユーザに権利を帰属させる場合
  3. 汎用的な利用が可能なプログラム等の著作権をベンダへ、それ以外を共有とする場合

第三者ソフトウェア・FOSS の利用/第48・49条関係

ここも感覚に良くあっている。ベンダがユーザに(リスクなども含めて)黙って選定した場合はベンダの責任になるべきだし、ユーザが指定した場合はユーザの責任になるべきだと思う。

パッケージソフトやフリーソフトを利用する場合のリスクについては以下のように書かれている。

第三者ソフト(商用パッケージソフト等)及びFOSS(フリーソフトウェア及びオープンソースソフトウェア)の利用については当該ソフトウェアそのものの瑕疵に起因するリスク及びシステムとの組み合わせに起因するリスクが存在する。

また、選定の主体によって責任範囲が異なり、選定に際してベンダはユーザに対して専門家としての情報提供義務を負うことと書かれている。

ユーザが特定の製品を予め指定する場合、価格・機能の条件を指定しその中からベンダが選定する場合、ベンダが自ら選定する場合があり、それぞれの場合でベンダの責任の範囲が異なってくる。

モデル契約プロセス

契約プロセスは以下のとおり。

  1. ユーザは、情報提供依頼書(Request For Information:RFI)をベンダに提示し、必要な情報の提供を求める。
  2. ベンダは、ユーザに対して必要な情報を提供するが利用方法について注文をつけたりできる。
  3. ユーザは、ベンダに対してシステム開発の提案依頼書(Request For Proposal:RFP)を求める。
  4. ベンダは、ユーザに対して提案書・見積書を提出する。
  5. ユーザは、提案と見積を勘案し、ベンダと契約を結ぶ

ただし、RFPを自力で作ることが困難なケース(ユーザ側の体制が充実していない等)においては、開発契約の前提としてコンサルティングを活用すること、あるいは企画・要件定義段階と開発段階とは別契約として契約を締結することが望ましいと書かれている。1と2はオプションで省略されることがある。

ハードウェア等調達契約

さまざまな条件がありえるとの理由から、ハードウェア等調達契約についてはモデル取引契約書の範囲から除外されている。残念。

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